世界のロックスターと会った時の話

2017.6.28

 

 

これは、

いつ壊れてもおかしくないノートパソコンのHDを整理して

発掘された11年ぐらい前に書いた文章の蔵出し。
せっかくなのでブログでしるします。


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冬の思い出話をひとつ。(長いです)

世界的なロックミュージシャンと会って話す機会というのは、そうそうあるもではない。
しかし、僕にはある。

一度だけ。

1986年。就職も決まった大学4年の冬の話。
その年は伊豆大島の火山が噴火した年であり、
ワールドカップメキシコ大会において、

マラドーナがイングランド戦で「神の手」ゴールと奇跡の5人抜きゴールを決めた年である。
歌謡界では小泉今日子、松田聖子、中森明菜、「おニャン子クラブ」などのアイドル全盛期。
まさにバブル景気のまっただ中。そんな歳の瀬だった。

「レコード屋で、バイトせえへん?」
ぼくは親友の松本に誘われて、京都の「都レコード」という店でバイトをすることになった。
もともと2人は音楽が好きで、とくに松本はロックバンドのギターとボーカルをつとめるほどである。

「ええなぁ!京都のレコード屋なんて、良さそうやん」と、
二つ返事で期待して行ってみたら、そこはとてもレコード店らしくないレコード店だった。
はじめて店に入った時、思わず「あ、間違えた」と180度向きを変えて外に出て、もう一度店の名前をたしかめたほどである。

そこは「四条通り」という大通り、しかも河原町と烏丸とのちょうど中間、という商売には最高の立地にありながら!

間口の狭いぼろぼろの木造2階建ての店だった。
店頭には売れ筋のアイドルの新譜や安全地帯やユーミンが並んでいるものの、店頭の大半を占めているのは、アイドルの名前が印刷された鏡やらコームやらタオル。天井からはアイドルのポスターやカレンダーがぶらさがり、レコード店というより…アイドルショップ。
洋楽などは、奥の方にほんのオマケ程度に面出しされているだけで、全部かぞえてもたったの20枚ぐらい!
しかも店の片側の棚のほとんどが邦楽のカセットテープとカラオケ用の8トラという情けなさだった。
たぶん、松本はこんな店のバイトが、ひとりでは退屈で僕を誘ったのだろう。

ぼくは「ダマされた!」…と思いながら
ニコニコ顔の松本と並んで

「えーと、よろしくお願いします」と

白髪交じりの冴えないおっさん店長に挨拶するしかなかった。


さて、そんな店ではあるが、師走の「都レコード」はそれなりに忙しく、

ひっきりなしに、アイドルカレンダーの予約に来るオタクの兄ちゃんや

アイドルのLPの先行予約による景品をあてこんだミーハーな客で賑わっていた。

当時はアイドルや、アニメの主題歌のレコードなどの先行予約をすると特別に景品がもらえるということがよくあったのだ。
ぼくは、アイドルやアニメに疎くて、景品の詳細を根掘り葉掘り質問してくる熱烈なファンが来ると、全く答えられず困っていた。
「おまえが解らんのに、なんでオレが解んねん」と言いたいところだが、

慣れてくると「はい。あ、そうです。たしか、水着の写真もありますよ。それです。赤いビキニのやつです」などと全くのでまかせを言って予約を次々に取るようになっていた。

そんな寒い京都の暮れのある日。その大物ミュージシャンは、都レコードにやってきた。

それは、ぼくが店の二階にある廃屋のような休憩室で灯油ストーブに当たりながら休憩してた時だ。
裏手にある錦市場で買った好物の回転焼きをほおばっていると、
松本がボロボロの階段を猛スピードで駆け上がってきて、ちいさくて少しつり上がった目を丸く開いてこう言った。
「はた!はた!下にルーリードが来てる!」

ルーリードと言えば、世界中を熱狂させたベルベットアンダーグラウンドのヴォーカルで中心的存在だ。
そして、ぼくは当時、彼らの音楽のファンだった。
「アホか、おまえは…。こんな店にルーリードがくるわけあるかいな」
そんな世界的ミュージシャンがこんなしょぼい、ぼろぼろのアイドルショップに来ると、どうして信じられようか。
いったい、何をしにくるというのだ?

「と、とにかく見てくれ!」
松本があんまり必死でいうので、ちょっと似てる外人が来てて、笑わそうとでもしてるんやろ、しぶしぶ階段を降りた、ら。
……本物だった!
「うそやん!ルーリードやん!」
そういうと、
「え、やっぱ!ほんものか!」と松本が言う。おいおい。
実は本物かどうか自信がなかったので、ルーリードのファンであるぼくに確かめさせたらしい。

ああ~。
ぼくは、驚くと同時に、うれしいような悲しいような複雑な気持ちになった。
なんて、かわいそうなロックスター。
なにも、こんなしょうもないアイドルショップに来んでもええのに。
「外人やし分からんと、普通のレコードショップやと思ってうっかり入ってしもたんやなあ」

複雑な気持ちを抱えつつ、でもこんな機会は二度と無い。

とりあえずサインはもらっとこ!と紙を探した。
しかし適当な色紙が見当たらず。
「こんなん失礼やんなあ」と思いながらも、小さなメモブロックとボールペンを持ち、勇気を出して、「サイン プリーズ!」と差し出した。
するとルーリードは、いかにもめんどくさそうに、メモとペンを取った。
そして、クルクルッとミミズのような線を一瞬で書いて、僕に渡した。

それは…どう見てもサインに見えない。
完全に適当にあしらわれた。
そら、メモブロックはあかんわな。

落胆したが、気を取り直し、ファンであることを主張してみた。
「アイライク ユア ミュージック。ユア『パリスライブ』 イズ ア マイフェイバリット レコード。イッツグレイト!」
などと爆笑ものの英語だが、とにかく必死で言ってみた。
するとその熱意が通じたのか、ルーリードの瞳がきらりと光り、真っすぐにこっちを見て言った。
「今日、日本を離れる。ウォークマンで移動中聞きたいから、日本のロックバンドのをいくつかほしい。全部カセットで」と言ってきた!
(ほんまは英語やけど)

ええっ!この僕が日本代表で、日本のロックバンドを選ぶってこと?
これは大変なことになった。でも、こうなったら、やるしかないではないか。

よ~し、ここはカッコいい日本のバンドを紹介するぞ…って、言いたいところだが、
アカン。この店絶対あかん!!

ぶら下がるアイドルのポスターを横目に、ぼくは、店員にもかかわらず、
「あの、ディスウェイ ゴー ストレート。ラージサイズレコードショップ十字屋!プリーズ。こ、ここはあかんのです。もっと大きい店で買ってください!」
身振り手振りで必死で言うと、
さっきのファン告白で気をよくしたのだろうか、真っすぐぼくを見て、目をキラキラさせて、にルーリードはいった。
「いいんだ。君のすすめるのをくれ。この店でね」

あ~~~いや~~その~~。
ぼくを自分のファンと見込んで言ってくれたのは嬉しいが、
ここは、この店だけはアカン。
とあせってると、

横で聞いていた英文科の学生である松本が

そそくさと「甲斐バンド」と「BOWY」のカセットを取って渡してるではないか!

おい、ええんか?そんなんで。
この店には、それぐらいしか渡せるのがないのはわかるけど、
「おまえな、相手は天下のルーリードやぞ、ニューヨークの最先端やぞ
アンディー・ウォーホルの友達やぞ!」
と言ってる間に、レジでニコニコ会計する松本。

しかもキョンキョンのカセット入れまでサービスしている。
ちょっとまて!!ルーリードやぞ!ベルベットアンダーグラウンドやぞ!

第一そのカセット入れ、景品やぞ。

とそのときだった。
ルーリードが天井を指差し「この曲もほしい」と言い出した。

それは山下達郎の「オンザストリートコーナーⅡ」というアカペラコーラスのアルバム。
当時大ヒットしていて、コーラスはすべて一人で多重録音をしてハモっていると話題のアルバムだった。

僕はカセットを取ってきて「ディス コーラス オンリーワン ボイス」
とただ単語を並べただけの英語で説明した。
すると、ルーリードは目を丸くしてぼくを見つめ、こう言った。
「アメイジング!!リアリー?」

気に入ったようだ。


そして、会計をすました後、レジ横にあるさっきのブロックメモをさっと取って、今度ははっきりとサインをしてくれた。
日付入りで!頼んでもいないのに!しかも握手までしてくれたのだ。

少しは役に立てたようで、ホッとした。
その時、心から思った。日本に山下達郎がいてくれてよかった!と。
ありがとう!山下達郎!
しかし。
ルーリードが「甲斐バンド」と「BOWY」をニューヨークへ向かう飛行機で聴いたのかと思うとなんとも複雑だ。

この、四条通の「都レコード」は、今はもうなくなったらしい。
そしてカセットも、ウオークマンもなくなった。
ぼくの学生最後の、冬の、そして京都の思い出である。

 

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長い。

最後まで読んで下さった方、ありがとうございます。

11年前に文章を書く練習で書いたものです。

読み返すとなつかしく、さらに学生時代の京都を思い出します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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